スペシャルインタビュー

ICTを活用した先進的な取り組みにもチャレンジする創立150年を迎える「新座市立片山小学校」

練馬区と隣接する埼玉県南部の新座市片山地区。黒目川や新座緑地に象徴される恵まれた自然環境があり、戸建てを中心とした落ち着いた住宅地が広がっている。1874(明治7)年に開校した「新座市立片山小学校」の長い歴史からも、代々受け継がれてきたであろう子どもたちを育むあたたかい地域性が想像される。

今回は2021(令和3)年度に着任した戸高正弘校長先生を訪ね、「新座市立片山小学校」の歴史や特色ある取り組み、地域や保護者とのつながりについてお話を伺った。

「新座市立片山小学校」 戸高 正弘 校長先生
「新座市立片山小学校」 戸高 正弘 校長先生

地域の子どもたちが集まる寺子屋からはじまった「新座市立片山小学校」の歴史

――まずは、学校の沿革および特徴について教えてください。

戸高先生:新座市立片山小学校」は市内で最も歴史の古い小学校で、来年度は開校150周年を迎えます。学校の北側に「法台寺」というお寺がありまして、地域の子どもたちを集めて読み書きを教えていたいわゆる寺子屋があったそうです。

その後、学制が発布され、1874(明治7)年に前身となる「黒目小学校」が創立されました。沿革によると1925(大正14)年に「法台寺」から現在地へと移転したという記載があり、「法台寺」の境内には「片山小学校発祥地」と彫られた石碑が置かれています。

「法台寺」の石碑
「法台寺」の石碑

子どもたちのために学ぶ場所をつくりたいという地域住民の熱い思いから始まって、みんなで協力し合いながら“おらが学校”を大切にして学校づくりを進めてきたことが伺えます。

3代、4代にわたって本校に通うご家族もいて、学校を大切にしてくださる方が多く教育に対して強い思いがある地域だというのを感じています。

周辺地域の街並み
周辺地域の街並み

ICTを積極的に活用した取り組みやSDGsの視点を取り入れた学習活動

――特に力を入れている取り組みについて教えてください。

戸高先生:新座市はもともとICTに向けた取り組みが進んでいて、日経BP社による「公立学校情報化ランキング2021」では、小学校と中学校がともに全国1位という評価をいただいたことがあります。パソコンやwifi環境の整備などインフラに関する部分もそうですし、ICTを活用した授業も進んでいて、本校のICT化もここ数年で一気に進みました。

私が着任したのもコロナ禍だったため、昨年と一昨年はオンラインを活用した取り組みを進めてきました。そのうち3、4年生は他の小学校とオンラインで繋がって、学習してきたことを紹介し合うような活動を行いました。特にそれぞれの地域の特徴や特産品を取り上げ、深谷市の小学校は「深谷ねぎ」と「渋沢栄一」について、本校は新座市特産のにんじんと市のキャラクターの「ゾウキリン」について紹介しました。

ICTの進んだ授業の様子
ICTの進んだ授業の様子

5年生の取り組みはメディアにも取り上げていただきまして、新座市からおよそ1000km離れた大分県臼杵(うすき)市とオンラインで繋がって交流しました。

一昨年は臼杵市泊ヶ内(とまりがうち)地区の漁師の方に、水産業についてお話しをしていただき、それを聞いて、「将来、私は漁師になります」と取材に答えた子どももいました。仕事に対する熱い思いを本音で語ってくださったことが子どもたちにとって大変貴重で、多くの学びにつながったと思います。

また、本校では昨年度よりSDGsの視点を取り入れた教育活動にも取り組んでおりまして、昨年の5年生は臼杵市にある「大分県立海洋科学高等学校」とオンラインで繋がって、高校生から海の環境問題について学ぶ機会もありました。

SDGsの視点を掲示版などでしっかり可視化
SDGsの視点を掲示版などでしっかり可視化

――SDGsを取り入れた学習活動についてもう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか?

戸高先生:私が着任する前のことですが、2019(令和元)年度から3年間の取り組みとして、自分たちの住む町を大事にする子どもを育成しようと地域の防災・減災に関する取り組みを進めていました。周辺住民の方を巻き込んで「地域防災会議」というのを開催し大変良い取り組みができたのですが、コロナ禍になって人を集めることが難しくなってしまい、2年目以降の計画の変更を余儀なくされました。

そこで地域から世界へと視野を広げて、SDGsを学習活動に取り入れられないかということで新たな取り組みを進めることにしました。

「新座市立片山小学校」校舎
「新座市立片山小学校」校舎

本校は委員会活動の名前もユニークで、従来のような体育委員会や環境委員会といった呼び方はしていません。例えば、「健康増進委員会」や「未来図書委員会」、「ICT委員会」、「グローバル委員会」など9つの委員会があります。各委員会の取り組みもSDGsを意識したもので、目標達成のために学校内でできることを子どもたちなりに考えて取り組んでいます。

また教職員の間でも職員会議などSDGsが掲げる17の目標を意識して、具体的にこういう目標を達成するためにこのような取り組みを行うといった考え方にシフトしています。学校研究においてSDGsに取り組んでいるのはおそらく市内では本校だけ、全国的に見ればいくつかの学校で取り組んでいますが、県内でも数えるほどだと思います。

「カリキュラム・マネジメントを意識して各教科の学習をつないで作成した、オリジナルの一覧表『学びの木』」
「カリキュラム・マネジメントを意識して各教科の学習をつないで作成した、オリジナルの一覧表『学びの木』」

これまで本校で取り組んできたことを精査して書類にまとめ、現在は、「ユネスコスクール」の認定に向けて動いているところです。「ユネスコスクール」とは、ユネスコ憲章に示されたユネスコの理念を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校が加盟を認定されるもので、SDGsを通してさらに国際的な視点を子どもたちにも持ってほしいと考えています。

学校HPの「かたやまっこ日記」でも紹介された、3年ぶりに開催の町内会のお祭り

――先進的なことにも取り組んでいる学校の姿勢が伝わってきますね。地域や保護者との関わり、交流についてもお聞かせください。

戸高先生:本校は2018(平成30)年度に学校運営協議会が設置され、コミュニティ・スクールとして運営されています。もともと地域と強いつながりのある学校ですが、町内会長さんや民生委員・児童委員さんなどこの町に長くお住まいの方にも入っていただいているので、SDGsやオンラインの活用など学校の取り組みは周辺住民の方も広くご存知いただいていることかと思います。

PTAからの表彰状も交流の証です
PTAからの表彰状も交流の証です

昨年は町内のお祭りも3年ぶりに開催されました。毎年8月になると片山町内会の夏祭りが本校の校庭で行われるのですが、校庭の真ん中にやぐらを組んでいただく中6年生の有志がダンスを披露しました。また道場町内会でも灯明祭りというのがありまして、黒目川沿いの「新座セントラルキッズパーク」に地域の子どもたちが集まりました。本校の1、2年生が作成した灯明が一緒に飾られ、キャラクターをイメージした灯明もありました。

学校の取り組みやお祭りの様子などは学校HPの「かたやまっこ日記」でも紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

「新座市立片山小学校」の校庭
「新座市立片山小学校」の校庭

――ほぼ毎日、写真付きで日記が更新されているようですが、校長先生自ら更新されているのですか?

戸高先生:着任してからほぼ毎日更新するようにしています。小学生の頃は日記の書けない子どもだったのですけれど、校長になってから毎日何かに取り組もうと決め、HPにて子どもたちの様子を綴ろうと考えました。これをきっかけにして「学校でどんなことをしたの?」とご家庭でも話題になって、子どもたちや学校により関心をもっていただけると嬉しいなという思いでやっています。

携帯でもご覧いただけますので、通勤途中や休み時間など「昨日はどんなことをしたんだろう」と楽しみながら学校のHPをご覧いただけるようになるのが理想です。おかげさまで地域の方にもご覧いただいているようで、この2年間で2万7000回ものアクセスがありました。

普段の授業の様子
普段の授業の様子

「第三中学校区」で行われる防災訓練を通して地域がつながる

――今年度の取り組みについて教えていただけますでしょうか?

戸高先生:オンラインを活用した取り組みは引き続き行う予定です。5年生の大分県臼杵市との交流もそうですが、6年生は市内の他の小学校とオンラインでお互いに英語のプレゼンを行う取り組みも進めており、国際的な視野を広げることにつながると考えてています。

また「ユネスコスクール」として認定されることによって、地域の方や保護者もますます学校の取り組みに関心をもってくださるようになりますし、コロナ禍でできなかった防災・減災の取り組みも再開したいと思っています。

「新座市立片山小学校」の教育目標
「新座市立片山小学校」の教育目標

直近の予定では2023(令和5)年5月1日に「新座市立第三中学校」区にあたる「池田小学校」「栄小学校」「第四小学校」「片山小学校」「第三中学校」の5校で一緒に防災訓練を行います。学校ごとに児童の引き渡し訓練はやっているのですが、今回は中学校のお兄さん、お姉さんが小学校に迎えに来ることも想定しながら訓練を行います。

中学校や他の学校とコラボして防災訓練に取り組むのは市内でもおそらく第三中学校区だけで、地域の一員として地域を大事にする子どもの育成につながっていく取り組みだと思います。

交流のある「新座市立第三中学校」
交流のある「新座市立第三中学校」

もうひとつは学校の敷地内にビオトープを作る予定です。総合的な学習にも生かすことができると考えていて、例えば池の大きさや深さを測るには算数が必要ですし、動植物の観察は理科的なまなざしが求められます。このように教科横断的な学びにも生かせるので、新しい取り組みとして進めていきたいと考えています。

自然があってバス路線も多く住みやすい地域

――周辺の生活環境の魅力についてもお聞かせください。

戸高先生 オンラインで子どもたちが発表するのを見ていると、スーパーマーケットが多いとか交通の便が良いなど、子どもたちなりに地域の良いところをたくさん見つけているように思います。

このあたりはバス路線が充実していて、大泉学園、朝霞台、志木、ひばりヶ丘などいろいろな方面に行くことができます。また自然にも恵まれていて、黒目川沿いや学校の南側には「どんぐり山」と呼ばれる緑地があります。自然があって交通利便も良く、東京にも接している住みやすい地域ではないかと思います。

「黒目川」沿いの様子
「黒目川」沿いの様子

灯明祭りが行われた「新座セントラルキッズパーク」は、子どもたちが大好きな遊び場のひとつです。水遊びのできるじゃぶじゃぶ池もありますし、子どもたちが安心して遊べる環境があるのも魅力だと思います。

「新座セントラルキッズパーク」
「新座セントラルキッズパーク」

埼玉県新座市・「新座市立片山小学校」
埼玉県新座市・「新座市立片山小学校」

新座市立片山小学校

校長 戸高 正弘先生
所在地: 埼玉県新座市片山1-8-31
電話番号:048-477-0312
URL:http://www.c-niiza.ed.jp/e-katayama/
※この情報は2023(令和5)年4月時点のものです。