人と人をつなぐ「シェアアトリエ つなぐば」が生む、草加の新たなまちづくり
東武スカイツリーライン「草加」駅から2駅隣の「新田」駅から徒歩15分。築35年のアパートをリノベーションした施設がある。2021(令和3)年にグッドデザイン賞を受賞した「シェアアトリエ つなぐば」(徒歩41分/約3,260m)だ。今回は「シェアアトリエ つなぐば」を運営する「つなぐば家守舎」代表の小嶋直さんにお話を伺った。
子連れの女性が、無理なく自分らしく働ける場所
――まず、「シェアアトリエ つなぐば」の歴史や概要、活動内容について教えてください。
小嶋さん:勤めていた建築事務所から独立して活動し始めたとき、同じ敷地内で活動していた仲間がみんな同じようなタイミングで子どもが生まれて、仕事や子育てをシェアできるコミュニティができました。小さな村のような感じで、訪ねてきた人にもうらやましがられましたね。自分でもこうした場の大切さを実感していたとき、草加市が主宰するリノベーションスクールに講師として参加したんです。そこで村松美乃里さんと出会い、2018(令和元)年6月に共同で「つなぐば家守舎」を設立し、「シェアアトリエ つなぐば」をオープンさせました。
小嶋さん:働く女性が子どもを持つと、子どもを保育園に預けるか専業主婦になるかの2択になることが多いですよね。私たちはそこに、3つ目の選択肢として子どもを連れて行って仕事ができる場を作ろうと考えたんです。
最初にオープンしたのは1階部分。当時はカフェと同じ空間にワークショップを開く人やコワーキングする人が混在していました。途中から1階はカフェをメインとして、ワークショップは隣の個室でやってもらうなど整理し、少しずつ空間が広がり、現在では2階を含めた一つの施設になっています。オープンから6年半が経った今も当初と変わらず、子連れで働ける場を提供・管理し、カフェ運営などで利用者のサポートをしています。
小嶋さん:カフェのキッチンは誰でも使えるようにしています。食事を作る人とお菓子を作る人が日替わりなので、毎日違ったメニューが楽しめます。利用者の8割ぐらいはお子さんがいて、お子さんを保育園に預けている間にワークショップを開いたり、シェアキッチンで料理の仕込みをしたり、ご自身の活動をされています。
他にも1階のウッドデッキ部分や、一部管理している施設として「八幡西公園」、隣のアパートにもキッチン付きの「みのりば」というコミュニティスペースがあり、これらもご利用いただけます。
小嶋さん:また、2階には親子の木育の部屋「tonton’s toy -ちいさな木のおへや-」があります。木のおもちゃがたくさんある遊び場で託児機能もあり、産後ケアや家事代行なども行っています。あとは美容室コルジャヘアー「spa&nail」とギャラリーがあり、カフェ以外にも多くの施設が入っています。
――地域の方と一緒に行うイベントや、つなぐば家守舎として行っている活動について、教えください。
小嶋さん:毎月第4土曜日に、目の前の「八幡西公園」で「つなぐ八市」を開いています。地場野菜が並ぶマルシェに加え、キッチンカーなどいろいろなお店を楽しんでいただけます。地域の人にとっての「日常」になることを目的に始め、実現できたかなと思います。毎月定期的に開催し続けることで認識してもらえるようになり、自分たちも気負わず通常運転で開催できるようになりました。
小嶋さん:草加市は「新田」駅前の再開発で駅の中にあった書店もなくなり、付近には「独協大学」駅前にしか図書館がありません。そんなこともあって、「つなぐば」のすぐ近くでは、私設図書館「さいかちどブンコ」を運営しています。
ここは閲覧自由で、登録料を払って図書カードを作れば借りることもできます。私たちだけでは十分な量の本を集められないので、月額を払っていただくことで自分の棚を持てる「本棚のオーナー」も募っています。現在35人ほどオーナーがいらして、それぞれ好きな本を並べています。それを近所の人が借りて読んでいるわけです。
小嶋さん:このオーナーにはとしょ係という特典があります。いわゆる店番ですが、としょ係のときだけはご自身の本の販売や活動の宣伝をOKにしているんです。だからコーヒー屋さんが店番の日はコーヒーを飲める場に、焼き芋屋さんだったら焼き芋が食べられる場になったりして、地域の人が集まっておしゃべりする所にもなっています。
「草加」駅近くに子どもの居場所となる新しい拠点が完成
――施設を利用された方からの声や反応、小嶋さん自身の変化があればお聞かせください。
小嶋さん:私たちの考えに共鳴して一緒に活動を始めた人たちからは、「一人では事務所を借りるのも難しいので、こういう場所があるのはありがたい」という声もありました。ここを利用することで異業種の人と横のつながりが生まれ、それが仕事につながったケースもあります。私自身、ここで出会う人たちへお仕事を外注させていただくこともあり、非常に仕事がしやすくなりました。
――10月に新しい拠点が完成したとお伺いしました。新たな拠点は、どんな活動をする場所となるのでしょうか。
小嶋さん:「つなぐばもどき」は、子どもたちが安心して過ごせる居場所を提供するために設立されました。東武鉄道の社宅をリノベーションして運営しています。
「つなぐば」では、小学生くらいの子どもたちが時間を持て余し、ゲームや漫画を持ち込んで1日を過ごすことがありました。また、親に「連れてこられる」という感覚で来ている子も多いことが課題と感じていました。コロナ禍の影響で不登校が増えている現状も気になっていましたので、元学童支援員の方と一緒に、子どもの居場所づくりについて話し合いを続けてきました。
小嶋さん:「つなぐばもどき」はその方が運営するカフェで、子どもだけでも利用できる場所です。実際「つなぐば」では、放課後のチャイムが鳴っても宿題をやったりして帰らない子が多くいました。共働きのご家庭など、家に帰っても誰もいない子どもたちなどにとって、日が暮れても帰らなければならないという圧力をかけず、ゆっくり過ごせる場所を提供したいと考えています。
他にも不登校の子どもや一人で食事を取れない子どもたちなど、どんな子どもでも安心して過ごせる「第3の居場所」として機能しています。
まちづくりへの意識が高く、気さくな人が多い移住者の街「草加市」
――草加の特徴はどんなところにあるでしょうか。
小嶋さん:初めて来た人でも地域の情報が得やすいことが、草加の特長じゃないかと思います。この6年半の間に、地域のことを案内してくれるお店が増えました。自分のお店だけでなく地域全体のことを考えて経営する人が増え、お店同士が連携しているんです。だからこそ、まちづくりへの意識が高いのかもしれません。
また草加市の中でも、エリアによってお店の特色が変わります。「草加」駅前はガラス張りの扉など中が見える造りの店が多く、より気軽に入れるお店が多い印象です。旧日光街道沿いに並ぶお店も、カフェやバルなどいろんなお店があり、休日にハシゴするのもいいと思います。
――草加に住む上で、どのようなところを魅力に感じられますか。
小嶋さん:気さくな方が多いところですね。例えば、飲食店の隣のテーブルにいる人たちが「次はどこに行こうか」と話していたら、「ここがおすすめですよ」と話しかけるような。まさに「つなぐば」のカフェに似たイメージです。だからこそ草加に来たら、まずはチェーン店ではなく地元のお店に入ってほしいなと思います。
おすすめのスポットは綾瀬川沿いの土手の桜並木。トンネルみたいなところが本当にきれいで、花の時期はそこを通るようにしています。
――最後に、これから草加での生活を考えていらっしゃる方々へメッセージをお願いします。
小嶋さん:知れば知るほど面白い街ですし、いろんな人と仲良くなれる場所だと思います。ここ数年で気軽に入れる店も増えましたし、週末になるとあちこちでいろんなイベントが開かれているので、ぜひ出かけて街を歩いてほしいです。
「獨協大学」の前にある「松原団地記念公園」では、「PICNIGOOD soukamatsubara」というマルシェと「Heartland Market matusbara-soka」というファーマーズマーケットが定期的に開かれています。「草加宿場まつり」「草加ふささら祭り」「草加よさこいサンバフェスティバル」といった伝統的な地域のお祭りも楽しいと思いますよ。
シェアアトリエつなぐば
つなぐば家守舎 代表 小嶋直さん
所在地:埼玉県草加市八幡町935-4
電話番号:048-948-8240
URL:https://shareatelier-tsunaguba.com/
※この情報は2024(令和6)年10月時点のものです。