久呂無木(クロムギ)
「そばは嗜好品。酒好きな人ほど来てほしい」。そう語るのは、店主の新島勉さん。その言葉に導かれるように訪れるのは、そばとお酒の組み合わせの妙を愉しみたいという大人たち。客層は中高年層が多いが、親しみやすい雰囲気もある店ゆえ、気軽に立ち寄る女性の一人客もいるという。
サラリーマン生活から一転して、そば屋の道を歩み始めたという店主、新島さんが店をオープンしてから今年で17年。長く続いてきた歩みの裏にあるのは、そばに対する徹底したこだわりがある。
店で出しているのは、栃木県・益子から仕入れたそば粉で作る二八そば。自分の使うそばだからこそしっかり目をかけたいと、種まきから刈り入れまで自ら手伝うようにしているという。そうして手間暇をかけてそばを打つと、味わいも確かに違い、お客様に伝わっているように感じるという。
そばは、食感や味わいに変化を感じられる食べ物。そばを茹で上げたら冷やし、まずはコリコリとした食感を楽しむ。そのうち時間が経って温度が上がると香り、そして甘みが感じられるようになるという。そんなそばの変化を楽しめるように、そばは細切りにして、大盛りを作ることはせず、材料の量も一定で作って味わいをキープするようにしているという。
また、そばつゆは季節によって塩分濃度を変えて出している。塩分がほしくなる夏は、冬よりもやや濃いものを。その配慮の裏には、人は常に変化しているので、いつもの味を提供するためには、食側を変化させる必要があるというこだわりが潜んでいる。また、そばに合わせる天ぷらも揚げ方に工夫を凝らし、素材のおいしさを感じられる食感を残しながら、衣サクサクの状態で仕上げる。それが、店主のこだわりと技量がなせる絶妙な塩梅なのだ。
至る所におもてなしのこだわりを感じるが、「人のためにやるなんてできないから、すべて自分のためにやっていること」と断言する店主。かといってそれをおしつけることはなく、自分の趣味を印象づけるような装飾品は店内には一切置かない。「そばを食べ、お酒を呑んで、おいしいと思っている自分がそこにいることを知ってほしい」。それが店主の願いだそうだ。
とはいえ、客側が店で受け取るのは、居心地のよい空間と極上のうまいそば。結果的に、「自分のために」が、巡り巡って人のためになっているのだろう。
久呂無木(クロムギ)
所在地:埼玉県所沢市西所沢1-4-14
電話番号:04-2922-9619
営業時間:11:30~14:30(L.O.14:00)/18:00~22:00(L.O.21:00)※蕎麦は売り切れ次第終了、入店はラストオーダーの15分前まで
定休日:水曜日、第3火曜日
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