スペシャルインタビュー

「盆栽教育」で学校と地域が深く豊かにつながる「さいたま市立植竹小学校」

1951(昭和26)年の創立より71周年を迎えた「さいたま市立植竹小学校」。教育活動の一環として「盆栽教育」に取り組む特色ある学校としても知られ、地域文化である盆栽を通して児童・保護者・地域・学校のつながりを感じられるあたたかい校風が魅力的だ。
また教科担任制の実施や「さいたまSTEAMS教育」の研究指定校など、新しい取り組みにも果敢にチャレンジする柔軟な学校運営も実践している。 今回は同校を訪ね、2020(令和2)年に着任された野津 美智代校長先生に特色ある教育活動や地域とのつながりについてなど、詳しくお話を伺った。

2021(令和3)年度に創立70周年を迎えた「さいたま市立植竹小学校」
2021(令和3)年度に創立70周年を迎えた「さいたま市立植竹小学校」

2021(令和3)年度に創立70周年を迎えた「さいたま市立植竹小学校

——2021(令和3)年度に創立70周年を迎えられたそうですが、これまでの学校の歩みと、現在の学校概要についてご紹介ください。

野津校長先生:本校は1951(昭和26)年の創立で、昨年2021(令和3)年度に70周年を迎えました。現在の児童数は689名、通常学級21学級と特別支援学級2学級を合わせて23学級で運営しています。学区内で大きなマンションの建設が進んでいることもあり、数年後には児童数が増えるのではないかと予想しています。

野津 美智代校長先生
野津 美智代校長先生

学校の歴史を遡ると、開校した1951(昭和26)年は982名の児童がいたようです。「大宮北小学校」、「大成小学校」、「日進小学校」、「大砂土小学校」の4つの学区から児童が集まったという経緯もあり、その4年後には全校児童数が1,400名を超え、1956(昭和31)年には「東大成小」が開校されたようです。

本校の施設の特色としては校庭に「植竹山」という学校のシンボルがあります。1974(昭和49)年に創立20周年を記念してPTAに制作、寄贈いただいたもので、現在も植竹山には大きなすべり台が設置されていて、子どもたちにとって人気の遊び場となっています。

また60周年の記念事業として2011(平成23)年に整備された「盆栽庭園」も本校の特色のひとつだと思います。後ほど詳しくお話ししますが、本校では2006(平成18)年から教育活動の一環として「盆栽教育」を行っており、「盆栽庭園」には子どもたちの盆栽が飾られて水やりや手入れなどをしています。

学校のシンボルとして親しまれる「植竹山」
学校のシンボルとして親しまれる「植竹山」

「自分の考えをもち、自分の言葉で表現できる子」の育成を目指す

——「植竹小学校」の教育目標や、学校生活・授業の中で大切にしていることについて教えてください。

野津校長先生:学校経営の方針については学校のHPでもご覧いただけますが、本校の学校教育目標は「すすんでまなぶ子」「たすけあう子」「げんきな子」です。

また今年度からさいたま市ではすべての市立学校でコミュニティ・スクールの運営が始まり、本校でも昨年度から準備委員会を設置して取り組みを進めて参りました。地域住民や保護者の方が参加する学校運営協議会のみなさまとお話しする中で、本校には“目指す児童像”というものが明記されていなかったということで、新たに学校経営方針に位置づけたところです。

植竹小学校の教育目標
植竹小学校の教育目標

本校の目指す児童像は、「自分の考えをもち、自分の言葉で表現できる子」です。これは学習の面でもそうですし、普段の学校生活においても自分の言葉でコミュニケーションをとれるような子どもを育成していこうという思いが込められています。「学校だより」にも書きましたが、あいさつも大切なコミュニケーションです。例えばいじめのような問題が起きたとしても一人で抱え込んでしまうのではなく、身近な大人に伝える、相談してみるといったことが大切だと思っています。

また教科担任制の実施や「さいたまSTEAMS教育」などについても学校経営の方針に位置付けて取り組みを進めております。

市内で先行して取り組む「教科担任制」。授業の質向上や、子どもたちの多面的な見守りなどの手応え

——教科担任制の実施についてお聞かせください。子どもたちにどのような学びの変化がありますか?

野津校長先生:まず教科担任制(各教科を専門の教師が教える体制)の実施についてですが、さいたま市では2023(令和5)年度からすべての市立小学校で教科担任制を導入することになっています。

本校では校内の指導体制を十分に整えることができたため、実践モデル校として先行するかたちで2021(令和3)年度から5年生、6年生において教科担任制を実施しています。メリットとしては、ひとつは授業の質の向上が挙げられます。担当する教科を絞ることによって教材研究により時間をかけられるようになりましたし、授業の内容を深めることにもつながっています。またそれが教員の働き方改革にもつながって、在校時間も減る傾向にあります。

校舎入口
校舎入口

それから自分が担任するクラスだけではなく、学年すべての子どもたちを多面的に見ることができるようになったため、何か問題が起こった時にも初期対応として学年全体ですぐに取り組めるようになりました。例えば生徒指導や教育相談といったものが必要なお子さんについて、クラスの担任だけではなく学年全体で情報共有することによってみんなで見ていこうという体制が整っています。また中学校は完全に教科担任制なので、中学校への円滑な接続という点でも生かされていると思います。

保護者の方からも好評で、担任だけではなく他のクラスの先生も見てくれているということが安心感につながったり、子どもたちにとっては高学年になると異性の教員に相談しづらいようなこともあり、同性の教員に相談できたりするようになったこともメリットとしてあるようです。

——全教科で教科担任制を実施している学校というのは数少ないとお聞きしましたが?

野津校長先生:一部の教科で教科担任制を実施している学校は多いと思いますが、本校のように全教科で完全な教科担任制を実施したのは市内でも数少ないと思います。

私自身、教科担任制を実施している学校に勤めていたこともあり、その良さを知っていたので自分の言葉として教員に話せたのは良かったと思います。また本校の教員はすごく前向きで何でもやってみようという意識があり、教材研究も生徒指導の部分でも効果的に動いていると感じます。

校内の様子
校内の様子

もちろん、公立小学校教員なのですべての教科を教えられるということが前提としてはありますが、苦手に感じる教科だとなかなか子どもたちの興味や関心を伸ばすことはできませんし、図工や体育のように専門性の高い教員が授業を持つと子どもたちの表現がまったく違ったものになってくる教科もありまして、各教員の得意な教科で子どもたちに関わっていくことができています。

去年は算数をやったけど今年は社会科・家庭科を持ちますといったように、教員の意向や今後のキャリアなども考えながら柔軟な組織運営に努めています。

さいたま市の研究指定を受けて取り組みを進める「さいたまSTEAMS教育」

——「さいたまSTEAMS教育」の実際についてもお聞かせください。

野津校長先生:従来の「STEAM」教育というのは、「Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics」の頭文字をとったもので、それらを統合的に学習する教育概念のことですが、さいたま市ではそれに「Sports」 を加えて、本市独自の「STEAMS」教育に取り組んでいます。

本校では2020~2022(令和2〜4)年度までの3年間、さいたま市の研究指定を受けて「さいたまSTEAMS教育」について研究を進め、今年10月25日に研究発表会を行いました。具体的には、「体育」をモデル授業とし、『かかわりながら考えて、わかる! できる! 楽しい! 体育授業〜探究的な学習を組み込んだ体育単元の実践を通して〜』を研究テーマに掲げ、ゲーム領域や器械領域などの授業実践を行いました。

例えばゲームでは自分たちのプレーした様子を動画に撮って、分析をしたり、次のプレーに向けてより良い方法が無いか作戦を練ったりする時間を設けました。また実践発表というかたちでその作戦が有効だったか検証するところまで行いました。またマット運動では、自分の動画と手本となる動画を見比べて、どこが違うのか客観的に自分の動きを分析しました。ICT機器を活用しながら取り組んだのもこの研究のポイントです。課題を発見する力や解決する能力の育成、あきらめないで挑戦する力といったものも含めて学べたと思います。

地域の文化資源を活かした「盆栽教育」が、学校と地域を結び、子どもの心を育む

——「盆栽教育」という特色ある教育も行われているようですが、具体的な取り組みや地域との関わりなども教えてください。

野津校長先生:本校の学校区に盆栽町という地区があり、「大宮盆栽村」として大正時代から盆栽業が営まれてきました。現在も「さいたま市大宮盆栽美術館」や複数の盆栽園といった施設があり、日本の盆栽文化を伝えています。

「さいたま市大宮盆栽美術館」
「さいたま市大宮盆栽美術館」

そうした地域文化にちなみ、本校の「盆栽教育」は2006(平成18)年に始まって今年で17年目を迎える取り組みです。学習過程の中に「盆栽教育」を位置づけ、5年生は総合的な学習の時間の中で盆栽園の見学や「大宮盆栽美術館」へ見学に行きます。3年生も国語の学習で盆栽をテーマにした新聞づくりに取り組んでいます。

また5年生になると「盆栽教室」があり、盆栽園「清香園」から本校の卒業生でもある5代目の山田香織先生が来てくださってご指導をいただき、一人一鉢「マイ盆栽」をつくり、校舎内にある「盆栽庭園」で自分たちで水やりや手入れなどの世話をします。そうして育んだ「マイ盆栽」とともに6年生たちが卒業式を迎えるというのが本校の特色のひとつです。

校内にある盆栽庭園
校内にある盆栽庭園

野津校長先生:また本校の「盆栽教育」は、児童・教員・地域ボランティアの3つの組織が融合して行われているのも特色です。まず児童は委員会活動として「盆栽委員会」があり、児童委員会の子どもたちが盆栽庭園にある盆栽の世話や盆栽教室の準備を行ったりします。 また教員も私も含めて本校に着任するとマイ盆栽を持ち、他の学校には無い「盆栽教育部」という組織が校務分掌のひとつとして位置づけられています。2019(令和元)年度には、さいたま市優秀教職員組織ということで表彰を受けたこともあります。

児童も教員も「マイ盆栽」をつくり育んでいる
児童も教員も「マイ盆栽」をつくり育んでいる

そしてPTAの中にも「盆栽支援ボランティア」という組織もあり、盆栽教室のお手伝いや、年に2回ほど盆栽庭園の掃除に来てくださったりします。さらに「ぼんさい遊々(ゆうゆう)」という地域で活動するボランティアグループの方もお手伝いに来てくださって、みなさまの協力のおかげでここまで続いています。 他にも「ぼんさい遊々」のみなさまによる盆栽相談も学校で行われていて、在校生だけではなく卒業生もマイ盆栽を持ってきて、年に1回、盆栽の手入れなどをしてもらっています。卒業してからも盆栽を通して地域や母校とつながれるというのは素晴らしいことだと思います。

児童が考えた盆栽キャラクター
児童が考えた盆栽キャラクター

他にも、地域とのつながりという部分では、毎年ゴールデンウィークに「大盆栽まつり」というイベントが開催され、本校6年生の盆栽も展示し、地域のみなさまに好評いただいております。また過去には、2017(平成29)年にさいたま市で開催された「第8回 世界盆栽大会」の開会式に招待いただいたり、作品を展示していただいたりと子どもたちの大変貴重な経験になったと思います。毎年、卒業文集に「盆栽教室」について書く児童も多く、それだけ心の中に盆栽愛が根付き、子どもたちにとって思い出深い活動になっていると感じます。

「学習支援ボランティア」をはじめ、地域もあたたかく学校運営に協力

——他にも地域との連携で行われている活動はございますか?

野津校長先生:「学習支援ボランティア」という組織がありまして、これもまた他校にはない本校の特色のひとつだと思います。2003(平成15)年頃に始まった取り組みだと聞いておりまして、当時のPTA会長さんが中心になって子どもたちの付き添いや発達に課題のある子どもたちに手を差し伸べてくれました。2007(平成19)年になってから正式にボランティア組織として発足し、現在は30名ほどのボランティアの方が活動してくださっています。

活動の目的としては、子どもたちが落ち着いて授業を受けられるように支援するということと、発達に課題のあるお子さんたちの理解・支援といった部分もあります。例えば、休み時間が終わってもなかなか教室に入れない子どもの見守りや学習のお手伝い、また図書館見学や校外学習のときに一緒について来てくださったり、教員だけではなかなか対応しきれない部分をサポートしてもらったりしています。また月に1回、学習支援ボランティア会議というのが行われて子どもたちの状況を共有しており、当時のPTA会長さんが現在も代表を務めてくださっているほか、お子さんが卒業した後も引き続きOB・OGとして組織を手伝ってくださる方が多くいらっしゃいます。

広々とした校庭
広々とした校庭

市内のどの学校にも子どもたちの居場所を作ってあげたいと望んではいるものの、それを担う教員を十分に確保できないという課題もあり、本校のように「学習支援ボランティア」のみなさまがいてくださるおかげで子どもたちが安心して過ごせるのは大変有り難いことだと思います。また、「放課後チャレンジスクール」や「土曜日チャレンジスクール」(※)など学校地域連携コーディネーター・教室コーディネーターと相談しながら、さまざまな体験的な活動が行われていて、学校運営に協力的な地域のみなさまに大変感謝しています。

(※「チャレンジスクール」はさいたま市が推進する、放課後や土曜日に小学校の教室やスペース等を活用して、子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所)を設け、地域の方々の参画を得て、子どもたちの豊かな人間性をはぐくむため、スポーツ、文化活動、地域住民との交流活動等を実施する取り組み)

——ブラスバンド「クローバーズ」の活動についてもご紹介いただけますでしょうか?

野津校長先生:ブラスバンドの活動については、以前は年に10回ほど外部から指導者を招いて練習をしたり、土曜日も集まって練習したりしていましたが、残念ながら近年はコロナ禍で演奏会も中止され、全体で集まって練習することがなかなかできない日々が続きました。現在は少しずつ活動を再開しており、今年の予定としては育成会主催の音楽祭とさいたま市の管楽器演奏会の2本で演奏を予定しています。

学校運営に協力的な地域で、学校とのつながりもしっかりしていて安心

——最後に、野津校長先生が思う植竹町エリアの環境の魅力をお聞かせください。

野津校長先生:第一に、先ほどの通り、本校の運営にも快く協力してくださる地域のみなさまのあたたかさが魅力だと思います。コミュニティスクールに移行するにあたって学校運営協議会のみなさまともそれぞれの役割を果たして行こうとスタートしましたが、もともと地域と学校とのつながりがしっかりしているので、代々受け継いできたその関係を大事にしていきたいと思います。

「さいたま市プラザノース」
「さいたま市プラザノース」

また、本校の近くには「プラザノース」という施設があり、そこで図書館や文化的な活動を支援する施設、北区役所の公共サービスも利用できるなど、環境としても恵まれていると思います。

また、本校にとってはやはり盆栽町の存在が特別かと思います。私自身も本校に着任するまでは盆栽についてほとんど知識が無かったのですが、鑑賞の仕方を教えていただいて、とても奥深いなと感じています。実際に盆栽園を見学させていただくと、盆栽園によってもつくり方が違い、それぞれに特徴があってどれも素敵なんです。街中に木々の緑がたくさんあるのも魅力的ですよね。

盆栽町の街並み
盆栽町の街並み

本校の卒業生が大学の卒業論文で「盆栽教育」について書いたそうです。「盆栽教育」を受けて育った自分にとっては盆栽のことを知っているのが当たり前だと思っていたのに、ほとんどの人は盆栽に触れたことも無いと。コロナ禍前には「大宮盆栽美樹館」には海外からもたくさんの方が来ていましたが、そのような豊かな文化がある街に自分が住んでいて、本校で学べたということを大人になって幸せに思うと。また、卒業生の中には「盆栽ジュニア」としてこの街の盆栽に関わり続けている中高生もいますし、山田香織先生の盆栽園に就職した方もいます。また英語のスピーチコンテストで盆栽をテーマに発表して全国入賞を果たした卒業生もいて、盆栽を通してみんなつながっているのを感じます。

学区にこうした街があるというのは、子どものうちは当たり前なんですけど、大きくなって外に出るとその当たり前がとてもありがたいことだと気がつく。そんな他では得られない素晴らしい環境が、この地域の魅力だと思います!

さいたま市立植竹小学校
さいたま市立植竹小学校

さいたま市立植竹小学校

校長 野津 美智代先生
所在地:さいたま市北区植竹町2-1
電話番号:048-663-7627
URL:https://uetake-e.saitama-city.ed.jp/
※この情報は2022(令和4)年11月時点のものです。

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